
鉄道写真家 中井精也さん
1967年10月東京生まれ。車両だけではなく、線路・ホームなど鉄道にかかわるすべてのものを被写体とし、臨場感のある鉄道写 真をライフワークとしている。毎日1枚必ず鉄道写真を撮影す るブログ「1日1鉄!」も好評。最新の癒し系鉄道写真集『ゆる鉄』とポストカードをセットにして3名様にプレゼント!
渋谷:
中井さんは「1日1鉄」というブログを毎日更新されていますね。
中井:
2004年の春から毎日1枚、鉄道の写真を撮影して公開してるんです。
渋谷:
鉄道が走っている、その風景までもが伝わってくるような写真ですよね。
中井:
僕の被写体は鉄道そのものじゃなくて、鉄道に漂う旅情とか、臨場感とか、そういうものが僕にとっては非常に魅力的な被写体なんですね。僕の写真を見ていただくと、電車も写っていなければ、線路も写っていないような写真もあったりするんですけど、例えば、踏切の後ろ側だけがちらっと写ってるだけの写真とか。
渋谷:
えぇ。
中井:
そういう撮り方の方が車両が写っているよりも、その路線が持つのんびりとした雰囲気が伝わる場合もあるんですね。だから僕が鉄道に乗ったり撮影に行って、この鉄道を表すにはどうしたらいいんだろう? って考えて、必要ない場合は車両も写さなかったりだとか…。
渋谷:
もともと鉄道にはお子さんの頃から興味があったんですか?
中井:
小学校の6年くらいの時に、父親から古い一眼レフのカメラをもらったんですね。当時スーパーカーブームっていうのがあったんで、最初は原宿に行ってスーパーカーの写真とかを撮ってたんですけど、ちょうどその頃、中央線の新型が入るというのが小学校で話題になって、それを撮りに行こうと。僕、阿佐ケ谷に住んでいたんですけど、中野駅の横の跨線橋から新型を狙って撮り始めたのが最初です。
渋谷:
惹かれた理由って何だと思いますか?
中井:
男の子って1度は鉄道にハマると思うんですね。カッコイイっていうのがあるんじゃないでしょうか? もう中学に入った時には鉄道研究会に入っているので、その頃から鉄道1本になっていましたね(笑)。
中井さんの最新写真集『ゆる鉄』。これは “ゆるい鉄道” という意味ですか?(笑)。
中井:
そうですね。“ゆるい写真” ではなくて、鉄道の中の“ゆるい風景” を一生懸命撮影しました(笑)。
渋谷:
とってもやわらかい本で、表情をにこやかにさせてくれるし、写真1枚1枚が温かいですよね! どこか懐かしくも感じるし、風景の中に鉄道が溶け込んでいる…。どうやって撮影されているんですか?
中井:
これは写真展をやるために撮り始めたシリーズで、写真は全部、正方形なんですよ。写真展で並べた時に、タテの写真とヨコの写真が並んでいると段差が出てしまうんですけど、それを真四角にすることで優しい雰囲気にしたということと、誰もが頭の中に描くローカル線の風景って、なんとなくあると思うんですけど、それを実際の風景で写真にしたかったんですよね。ですから、できるだけ具体的な駅名とか車両とかは入れずに。
渋谷:
私の頭の中にある、イメージの鉄道の写真を撮ってるような感じですよね。
中井:
だから、見た人が「行ったことがないんだけど、幼い頃この線路の横の道を歩いたことがあるんじゃないか」って、思わせることができたら僕の思い通りなのかな。
渋谷:
不思議ですよね。行ったことがないのに懐かしく思ったり、ノスタルジックに思えたり…。
中井:
ゆるいか、ゆるくないかは人それぞれ違うじゃないですか。ですから最終的には僕が基準となって、僕がゆるく感じるからみんなもゆるく感じてくれるだろうというスタンスでやってるんですけど(笑)。
渋谷:
そうですよね。
中井:
「どうだ! こんな写真撮れたぞ!」っていう電車がアップで写ってる写真、明暗を使って迫力を出す写真もあるんだけど、そういう写真ではなくて、見た人がほっとしてくれるような、ふらっと電車に乗って旅に出たくなるような、そんな雰囲気の写真を作りたいなと思ったシリーズなんですよね。
渋谷:
それがテーマなんですね。
中井:
都会で暮らしていると、みんな駆け足で生活してしまうんですけど、僕はカメラを持っているせいもあるんですが、目を凝らして見てみると、意外と都会の中にもゆるい風景とか、ほのぼのとした風景っていうのがあるんですね。そういうのを見つけて、みんなをほっとさせたいなっていうのが狙いなんです。
渋谷:
私も中井さんの写真集を見て、たくさんの癒しのエネルギーをいただきました!今日はどうもありがとうございました!
◆最新写真集『ゆる鉄』(クレオ刊)